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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)60号 判決

ドイツ連邦共和国シルタツハ七六二二

アムホーエンシユタイン 一一三アー

原告

ベーベーエス クラフトフアールツオイグテクニク アクチエンゲゼルシヤフト

右代表者

ハインリツヒ バウムガートナー

右訴訟代理人弁護士

竹内澄夫

市東譲吉

矢野千秋

前田哲男

同弁理士

富田修自

堀明〓

鈴江孝一

池田清美

大阪府東大阪市水走五二一番地

被告

株式会社アローエンタブライズ

右代表者代表取締役

本田理

大阪府大阪市西区北堀江一丁目一番三号

被告

株式会社インターハウス

右代表者代表取締役

菊野晴夫

右被告両名訴訟代理人弁理士

水野尚

横山浩治

山本忠雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六三年審判第一六八一六号事件について平成元年九月二一日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決

二  被告ら

主文第一、二項同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「自動車用ホイール」とする別紙第一記載の登録第七三六六五五号意匠(一九八三年七月二一日ドイツ連邦共和国においてした工業的意匠の国際寄託に関するヘーグ協定出願に基づきパリ条約第四条により優先権を主張して昭和五九年一月二〇日出願、昭和六三年三月四日設定登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者であるが、被告らは、原告を被請求人として昭和六三年九月一四日本件意匠の登録無効の審判を請求し、昭和六三年審判第一六八一六号事件として審理された結果、平成元年九月二一日、「登録第七三六六五五号意匠の登録を無効とする。」との審決があり、その謄本は同年一一月一五日原告に送達された。なお原告のため出訴期間として九〇日が附加された。

二  審決の理由

審決の理由は、別紙記載のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、別紙第三の「甲第五号証意匠」は「甲第四号証意匠」の誤記と認め、右のとおり訂正して本判決に添付する。)。

三  審決の取消事由

審決には、甲第五号証意匠が意匠法第三条第一項第二号にいう刊行物に記載された意匠であると認定した点に誤りがあり、また、本件意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様が審決認定(別紙第一五頁第一九行ないし第一八頁第一六行)のとおりであること、甲第五号証意匠は別紙第二に示すとおりであつて、その基本的構成態様、及び具体的構成態様のうちハブ部の外周縁付近の表面に「太い線状部を図として浮彫状に現わし」たとの構成並びに「前記太い線状部が二本一対とした比較的太い起立状態とし(中略)起立状線が相互に」交差している構成であることを除くその余の構成が審決認定(別紙第一九頁第八行ないし第二二頁第九行)のとおりであること、甲第四号証意匠は別紙第三に示すとおりであつて、その基本的構成態様のうちハブ部の構造上の構成が「車軸をハブ部の周縁でボルトで固着し、該部は凹状とした中凹状のものでその表面全体を蓋体・カバープレートで覆いこれを中心部のセンターキヤツプで固着している」構成であることを除くその余の構成、及び具体的構成態様のうち、デスク部に「多角形の透孔を一連に設け」た構成並びにスポーク部とハブ部の外周縁付近の構成が「先端付近で奥行のあるものすなわち地の部分が透彫状となるスポーク部のスポーク化した態様を呈し」た構成であることを除くその余の構成が審決認定(別紙第二二頁第二〇行ないし第二五頁第一二行)のとおりであることは認めるが、審決は本件意匠と甲第五号証意匠、甲第四号証意匠が全く別異の美的印象を与えるものであることを看過誤認した結果、本件意匠はその出願前外国において頒布された刊行物に記載のものに類似し意匠法第三条第一項第三号に該当するものと誤つて判断したものであるから、違法であり、取り消されるべきである。

1  甲第五号証意匠の図版が掲載されたドイツ雑誌は、一九八三年(昭和五八年)六月二九日号であるから、この日が発行日であることは推定できるが、その実際の頒布日は全く不明であり、その発行日と本件意匠の優先権主張日(昭和五八年七月二一日)とは極めて接近しているから、頒布日が右優先権主張日後の可能性がある。

したがつて、右ドイツ雑誌の実際の頒布日につき何らの立証もない以上、甲第五号証意匠は意匠法第三条第一項第二号にいう「意匠登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠」とはいえないから、これを引用意匠とした審決は、違法である。

2  本件意匠と甲第五号証意匠との類否について

意匠に係る物品「自動車用ホイール」においては、意匠の類否判断を左右する要部はデスク部にある。

そこで、本件意匠と甲第五号証意匠のデスク部を比較すると、本件意匠はスポーク部を分割構成して内側スポーク(センタープレート)と外側スポークとの接合部に細線を現し、内外側スポークが太くて丸みがあり、全体として重厚で立体的な形態であるが、甲第五号証意匠はスポークを一体に形成してセンタープレートがなく、しかもスポークが細くて角張つており、全体として軽薄で平面的な形態である点で両意匠は顕著に相違している。

特にデスク部の内側部分は意匠の創作の基調をなすところであつて、類否判断を左右する主要部であるが、この点において、本件意匠は基本形状をY字状としたことによつて内方が大きく五角形状に区画され、しかもY字状の垂直部分がセンタープレートの中心に向けて集中する放射状の印象を強く惹起させるものであるのに対し、甲第五号証意匠は基本形状をV字状としたことによつて、内方が小さい三角形状に区画され、センタープレートの中心に対して屈曲した態様である点で両意匠は顕著に相違している。

この点について、被告らは、デスク部の内側部分がデスク部全体に占める割合を算出し、それがほぼ百分の四程度を占めるものであるから、その際は微差にすぎない旨主張している。

しかしながら、単に面積のみを比較する手法は、この種物品において最も看者の注意を惹く部分はいずれの部位であるかという考慮を全く忘れた誤つた議論であり、また原告の試算ではデスクの内側部分がデスク部全体に占める割合はほぼ一〇%となり、それがデスク内周部であることを考えれば、極めて大きな差異をもたらす割合といわねばならない。

また、被告らは、前記Y字状とV字状との差を、その態様の差異は垂直片の有無であると主張しているが、V字状であればそのスポーク部はリムからホイール内側へと斜め一直線に向かうことになるが、Y字状であればそのスポーク部はホイール中心で突如としてその方向を変え、ホイール中心に向かうことになり、このように単純な流れの中に設けられた変化は、その変化の起こる部位がこの種物品で最も目立つホイール中心近辺であることとあいまつて看者の注意を著しく惹き、かつその垂直部分がホイール中心に向かつていることから中心に集中する放射状の印象を強く惹起させ、甲第五号証意匠とは全く別異の印象を看者に与えるものである。

しかるに、審決が「一般には意匠の創作はデスク部を中心に工夫されるものであると認めることができる」として、デスク部を要部として把握しながら、そのほぼ中央部分にあるスポーク部の構成の差異、すなわちY字状とV字状の差を微差と断じ、この差が要部における差であることを看過している。

甲第五号証意匠のデスク部の内側の環状の周縁付近一体に透孔を設けたものが、線状部を浮彫状に現したものか不明であり、この点の審決の認定は誤りであるが、仮に甲第五号証意匠がこのような構成のものであるとしても、本件意匠と甲第五号証意匠とはいずれの部位においてもその形態を異にしており、両意匠は全く別異の印象を与えるものである。

すなわち、リム部については、本件意匠は広幅の内方環状面に、扁平円柱状の上面を凹陥した下方に円盤状の縁を有するフランジ付きボルトを多数本配設しているのに対して、甲第五号証意匠は細幅のリムに半球状のリベツトを多数本配設したもので、両意匠は締金具を多数本配設した点で共通するとしても、その形態の相違とリムの幅の広狭によつて軽量感と重量感という違いを生じさせるから、この相違は顕著である。

デスク部については、前記のとおりである。

センタープレートについては、本件意匠がその厚さから重厚感を与えるのに対し、甲第五号証意匠は軽薄感を与えるものであるから、その差異は扁平六角形状とした共通感を凌駕しており、両意匠は各々独特な印象を与えるものである。

さらに、両意匠は次の点で相違する。〈1〉リム部、デスク部及びハブ部の比率が異なる。〈2〉本件意匠はスポークのあらゆる交点を丸く面取りしてデスク部内のあらゆるエツジを除去してあるのに対し、甲第五号証意匠はあらゆる交点が角張つており、スポーク自体も角張つてエツジを強調している。〈3〉本件意匠はスポークの外端にリングを設けて、それを介してスポークがリム部に接続するのに対し、甲第五号証意匠はスポークが直接リム部に接続している。〈4〉甲第五号証意匠にはリム部に分割線があり、リムリングをリベツトでリム部本体に止めていることをうかがわせるが、本件意匠にはリムリングは存しない。〈5〉本件意匠はスポークの直線部がハブ部の外方の離れた点から始まつているが、甲第五号証意匠ではスポークの直線部は接線的にハブ部外周から始まつている。〈6〉本件意匠では多角形状の凹陥面が三段の環状帯をなしているが、甲第五号証意匠では四段である。〈7〉本件意匠のデスク部表面の中央部付近が明らかに前方に膨出した形状である(このことは、本件意匠の設計図である甲第七号証により認められる。)のに対し、甲第五号証意匠ではデスク部表面が平面的形状である。

以上のとおり、両意匠は要部において相違するのみならず、各部の具体的構成態様においても相違し、これを全体的な統一体としてみれば全く別異の印象を与えるから、到底類似するものとはいえない。

また、本件意匠の要部はデスク部であり、特にその内側部分(ホイールの中心寄りの部分)が意匠の創作の基調をなすところで、看者の注意を引き、意匠の類否判断を左右する主要部であるが、甲第五号証意匠は、審決が自認するようにこの部分が不明瞭でその構成態様を明確に把握できないものであるから、かかる意匠を本件意匠と対比判断して本件意匠が意匠法第三条第一項第三号に該当し意匠登録を受けることができない意匠であると断定することは不可能である。

3  本件意匠と甲第四号証意匠との類否について

両意匠の要部であるデスク部を比較すると、本件意匠は内外観スポークが太くて丸みがあり、全体として重厚で立体的な形態であるが、甲第四号証意匠は内外観スポークが細くて角張つており、全体として軽薄で平面的な形態である点で両意匠は顕著に相違している。

特に、デスクの内側部分は意匠の創作の基調をなすところであつて、類否判断を左右する主要部であるが、この点において、本件意匠は基本形状をY字状としたことによつて、内方が大きく五角形状に区画され、しかもY状の垂直部分がセンタープレートの中心に向けて集中する放射状の印象を強く惹起させるようにしているものであるが、甲第四号証意匠は基本形状をV字状としたことによつて、内方が小さい変形菱形状に区画され、センタープレートの中心に対して屈曲した態様を表す点で両意匠は全く相違している。

したがつて、本件意匠は甲第四号証意匠に類似した意匠とはいえない。

第三  請求の原因に対する認否及び被告らの主張

一  請求の原因一及び二の事実は認める。

二  同三の審決の取消事由は争う。審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法は存しない。

1  甲第五号証意匠の図版が掲載されたドイツ雑誌は、原告が認めるように一九八三年(昭和五八年)六月二九日号であり、この日が発行日であることは明らかであつて、頒布に関する原告の主張は独自の見解にすぎない。

2  本件意匠と甲第五号証意匠との類否について

デスク部は、最も看者の注意を惹くところであつて、この種意匠の創作の主体をなすものであり、この点を意匠の要部とする点は何ら異論のないところであつて、審決もデスク部を要部と認定している。

そして、原告が主張する本件意匠と甲第五号証意匠との顕著な差異点のうち、まずセンタープレートの差異は、構造上はともかく、物品の外観を保護の対象とする意匠においては、単にパーテイションラインといわれる目立たない接合線の有無といえるものであり、その差異は、表面に現された太い線状部の奏する流れによつてデスク部全体が一体的なものとして意図されて現された態様の中に包摂されるものであり、しかも、原告自身細線と主張しているように微視的なものである。また、スポークの太さ、丸み等における差異にしても、慣用された手法による部分的な僅かな変更の範囲であり、立体としてその奥行も考慮すれば、その差は局部的で極めて微弱、微細な表現上の差異にすぎない。

次に、デスク部の内側部分が本件意匠においてはY字状、甲第五号証意匠においてはV字状が環状に現された部位は、要部であるデスク部に占める割合がほぼ百分の四程度のものであり、その極く僅かな環状部位を構成する更にその一部の態様であつて、要部における極めて微小な部分の差異を主張しているにすぎず、微視的というほかなく、かつ、その態様の差異は垂直片の有無であるが、その垂直片は微細なY字状部の更にその一部であり、しかも、該部を垂直片を設けてY字状とすることは、他の意匠にも見受けられ、極めて普通に知られていることであつて、本件意匠のみの特微といえないものであり、これがデスク部全体に影響を与える程のものとは到底考えられないから、その差異は微差というほかなく、この点について「局部的もしくは微弱なものである」とした審決の判断に誤りはない。

また、原告主張の本件意匠と甲第五号証意匠との相違点〈1〉ないし〈6〉は微視的差異にすぎず、同〈7〉は本件意匠と無縁の設計図(甲第七号証)に基づく対比を理由とするものである。そして、デスク部以外の差異点は、審決の認定に示されているようにいずれも微差というほかないものであり、全体として観察した場合共通点が増加し、類似感が一層強化されるものであつて、「これらの差異点を総合しても、前記主要部の共通点が奏する基調に影響を与えるものでなく、その他リム部及びナツト状部を含め他に共通点のある両意匠は全体として相互に類似する」とした審決の判断に誤りはない。

3  本件意匠と甲第四号証意匠との類否について

本件意匠と甲第四号証意匠の要部であるデスク部の態様の差異点もほぼ前記1主張のとおりであつて、両意匠を全体的に観察してもその差異点は微差にすぎず、両意匠は類似する意匠であるとした審決の認定、判断に誤りはない。

第三  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  成立に争いのない乙第一号証の一、二によれば、甲第五号証意匠は、ドイツ連邦共和国において刊行された「auto motor und aport」と題する雑誌の一九八三年(昭和五八年)六月二九日号に掲載されている図版であることが認められるところ、一般に発行日付けのある雑誌は、発行日とは異なつた年月日に頒布されたと認められる特別の事情が存しない限り、その発行日又はこれに近接した日に頒布されたものと推認することができるから、右雑誌は本件意匠の優先権主張日である昭和五八年七月二一日前にドイツ連邦共和国において頒布された刊行物と認められる。

原告は、右雑誌の実際の頒布日につき立証がない以上右雑誌は本件意匠出願前に頒布された刊行物といえない旨主張するが、一九八三年六月二九日号の雑誌が同年七月二一日前に頒布されていないということは、前記の特別の事情に属することであつて、かかる特別の事情の存在を認めるに足りる何らの証拠も存しないから、原告の右主張は採用することができない。

2  本件意匠と甲第五号証意匠とはいずれも意匠に係る物品を「自動車用ホイール」とするものであること、本件意匠は別紙第一に示すとおりであつて、その基本的構成態様及び具体的構成態様が審決認定(別紙第一五頁第一九行ないし第一八頁第一六行)のとおりであること、甲第五号証意匠は別紙第二に示すとおりであつて、その基本的構成態様、及び具体的構成態様のうちハブ部の外周縁付近の表面に「太い線状部を図として浮彫状に現わし」たとの構成並びに「前記太い線状部が二本一対とした比較的太い起立状態とし(中略)起立状線が相互に」交差している構成であることを除くその余の構成が審決認定(別紙第一九頁第八行ないし第二二頁第九行)のとおりであることは、当事者間に争いがなく、前掲乙第一号証の一及び二によれば、甲第五号証意匠において、ハブ部の外周縁付近の表面に現された太い線状部は図として浮彫状に現されており(透孔であればデスク部の外周付近と同様に現れるべき奥行を示す線が現れていない。)また、センターキヤツプ側からみて二本一対とした比較的太い起立状線として立ち上がり大きな角度のV字状に別れ、しかる後隣接する起立状線が相互に交差しながら、外輪部の内周縁端に向つて同一パターンが漸次拡大反復するいわゆるメツシユ状の態様に形成されているものと認められる。

そして、意匠に係る物品を自動車用ホイールとする意匠において、意匠の類否判断を支配する要部はデスク部であることは、当事者間に争いがない。

そこで、右認定事実に基づいて本件意匠と甲第五号証意匠とを対比すると、両意匠は、意匠に係る物品を共通とし、その構成態様においても、基本的構成態様は、ホイールの外周の外輪部とその内側に固着された内輪部とからなり、前者はタイヤを装着するほぼ円筒体を呈するリム部、後者はハブ部及びスポーク部を一体に形成したほぼ円盤状のデスク部であり、デスク部はボルト状のもので固着され、ハブ部の中心部には前方に突出するようにセンターキヤツプを配し、センターキヤツプの頂部を暗調子としている点で一致し、かつ具体的構成態様も次の点で一致しているものと認められる。

〈a〉  リム部は、その前後端縁部を段状の円盤状に出張らせた全体がほぼ多段状の短円筒のものである。

〈b〉  デスク部は、一枚の分厚い円板の外周付近一帯に一定の規則性を持つた多数の多角形の透孔を一連に設けてこの部分全体を地と図の関係とし、図をほぼX字並びの環状帯を呈する浮彫状のスポーク部とし、その内側の環状帯の周縁付近一帯のハブ部外周縁付近の表面に前記X字状並びの環状帯に関連対応した骨格を呈する太い線状部を浮彫状に現し、その内側の中心付近のハブ部は円形状に残し、ほぼ六角形状のセンターキヤツプを前方に突出するように配している。

そして、スポーク部とハブ部の外周縁付近の構成態様は、センターキヤツプ側よりは、ハブ部の内側の中心付近に残された円形状部の周縁のそれぞれ等間隔の一定の部分から太い線状部が二本一対とした比較的太い線状部として立ち上がり、その先端から大きな角度のV字状に別れ、しかる後隣接する起立状線が相互に交差しながら、外輪部の内周縁端に向つて同一パターンが漸次拡大反復するいわゆるメツシユ状の態様に斜めに放射されて縁端に至るが、その先端付近で地の部分が透彫状となるスポーク部のスポーク化した態様を呈する。この態様を逆の過程でみれば、これらは全体としてクロススポーク状を呈するメツシユ状に形成されている。

そうすると、本件意匠と甲第五号証意匠とは、その基本的構成熊様が一致するだけでなく、これを具体化した各個の態様、特に意匠の要部をなすデスク部において同一の意匠的特徴を示し、その結果看者に類似の美感を生じさせるということができる。

この点について、原告は、本件意匠はスポーク部を分割構成して内側スポーク(センタープレート)と外側スポークとの接合部に細線を現し、内外側スポークが太くて丸みがあり、全体として重厚で立体的な形態であるが、甲第五号証意匠はスポークを一体に形成してセンタープレートがなく、しかもスポークが細くて角張つており、全体として軽薄で平面的な形態であり、特にデスクの内側部分は意匠の創作の基調をなすところであつて、類否判断を左右する主要部であるが、この点において、本件意匠は基本形状をY字状としたことによつて内方が大きく五角形状に区画され、しかもY字状の垂直部分がセンタープレートの中心に向けて集中する放射状の印象を強く惹起させるものであるが、甲第五号証意匠は基本形状をV字状としたことによつて、内方が小さい三角形状に区画され、センタープレートの中心に対して屈曲した態様である点で両意匠は顕著に相違している旨主張する。

成立に争いのない甲第四号証及び前掲乙第一号証によれば、〈c〉本件意匠は、デスク部の内側スポーク部(センタープレート)と外側スポーク部との接合部に細線を現しており、かつ太い線状部はやや丸みを帯びているのに対し、甲第五号証意匠にはこのような細線は現れてなく、かつ太い線状部はほぼ直線状に現されていること、〈d〉本件意匠は太い線状部のセンターキヤツプ側(ハブ部の外周縁付近)の始端部分が基本形状をY字状とし、内方(暗調子部分)が五角形状に区画されているのに対し、甲第五号証意匠は、太い線状部の右始端部分が基本形状をV字状とし、内方が本件意匠に比して小さい三角形状に区画されていることが認められる。

しかしながら、〈c〉の内側スポーク部と外側スポーク部との接合部に現れた細線の有無及び太い線状部がやや丸みを帯びているか直線状かの差異は、前記〈b〉認定のデスク部に現れた両意匠に共通する意匠的特徴から把握される美感からすれば、極めて微細な看者の注意を惹かない点であり、また、成立に争いのない乙第三号証の一ないし六によれば、意匠に係る物品を自動車用ホイールとする意匠において、本件出願前〈d〉の太い線状部のセンターキヤツプ側の始端部分が基本形状をY字状とし、内方を五角形状に区画する構成態様は極く普通に用いられており、取引者、需要者がしばしば目にするありふれた構成態様であるから、看者にはこの部分から両意匠が美感を異にすると認識されることはないというべきである。

また、原告は、両意匠はさらに〈1〉ないし〈7〉の相違点及びリム部・センタープレート等の各部の具体的構成態様の相違点を挙げ、両意匠は類似するものとはいえない旨主張する。

しかしながら、意匠の要部は意匠を全体的に観察してその物品の性質・機能・使用形態等から類否判断を支配する部分とされる部分であり、両意匠の要部であるデスク部以外の態様の差異は意匠の類否判断を左右するものではない。

そして、原告がデスク部の相違点として主張する部分(ただし、〈7〉は本件意匠の意匠公報及び出願図面の記載に基づかない対比であることは原告の主張自体から明らかであり、これを両意匠の相違点と認めることはできない。)は、両意匠を微視的に観察した場合に始めて認められるような相違点であり、両意匠が自動車用ホイールの意匠における要部であるデスク部の構成態様において前記認定の同一の美的特徴を有し類似の美感を生じさせるものである以上、両意匠は類似する意匠というべきである。

しかも、要部の観察とは別に両意匠を全体的に観察した場合においても、前記認定の両意匠に共通する基本的構成態様及び具体的構成態様から両意匠は類似の美感を生じさせるものである。

成立に争いのない甲第八号証(鑑定書)には、原告の主張に沿う記載が認められるが、両意匠が類似の美感を生じさせることは前述のとおりであるから、これを採用することはできない。

さらに、原告は、本件意匠のデスク部の内側部分(ホイールの中心寄りの部分)が意匠の創作の基調をなすところで、意匠の類否判断を左右する主要部であるが、甲第五号証意匠は、審決が自認するようにこの部分が不明瞭でその構成態様を明確に把握できないものであるから、かかる意匠を本件意匠と対比判断して本件意匠が意匠法第三条第一項第三号に該当の意匠であると断定することは不可能である旨主張する。

しかしながら、甲第五号証意匠の基本的構成態様、具体的構成態様は前記認定のとおりであつて、本件意匠と対比判断するに必要な構成はすべて明確であり(審決もハブ部の外周縁付近の表面に表わされた太い線状部について、「該部が透孔としたものか、浮彫状としたものかは不明な点もあるが該部を精査すると」として、この部分を浮彫状と認定しているのであつて、構成態様が明確に把握できないと認めているのではない。)原告の右主張は理由がない。

3  以上のとおりであるから、本件意匠は、甲第五号証意匠に類似する意匠というべきであつて、意匠法第三条第一項第三号の規定に該当するとした審決の判断は正当であり、甲第四号証意匠との類否判断の当否について検討するまでもなく、審決に原告主張の違法は存しない。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 岩田嘉彦)

昭和63年審判第16816号

審決

東大阪市水走521番地

請求人 株式会社 アローエンターブライズ

大阪市西区北堀江1丁目1番3号

請求人 株式会社 インターハウス

東京都港区西新橋3丁目9番5号 武山ビル5階

代理人弁理士 宮滝恒雄

ドイツ連邦共和国 シルタッハ 7622 アムホーエンシュタイン 113 アー

被請求人 ベーベーエス クラフトフアールツオイグテクニク アクチエンゲゼルシャフト

大阪市北区神山町8番1号 梅田辰巳ビル

代理人弁理士 鈴江孝一

神奈川県鎌倉市腰越4丁目7番31号 池田特許事務所

復代理人弁理士 池田清美

上記当事者間の登録第 736655号意匠「自動車用ホイール」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第 736655号意匠の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

〔Ⅰ〕 請求人の申立及び理由

請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由として、本件意匠登録第736655号意匠(以下「本件登録意匠」という)は、その優先権主張の基礎とする第一国の登録出願前に、日本国内及び外国において頒布された印刷物に記載された意匠に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号に該当し、また、その出願前に日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に創作されたものであり、意匠法第3条第2項の規定に該当するものであるから、その登録は無効とされるべきものである皆主張し、立証のため甲第1号証の1、2、3、甲第2号証の1、2、3、甲第3号証、甲第4号証の1、2及び甲第5号証の1、2を提出した。

〔Ⅱ〕 被請求人の答弁

被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由として要旨下記のとおり述べた。

すなわち、本件登録意匠は、請求人引用の甲各号証の示す意匠とはその具体的構成態様を著しく異にするものであって到底類似するものではなく、また甲第1号証の1、2、3の示す意匠、甲第2号証の1、2、3の示す意匠、甲第3号証の示す意匠から容易に意匠の創作をすることができたものでもない。

その事由を詳述すれば次のとおりである。

1.請求人の引用する甲各号証の示す意匠との非類似性について、

(1)甲第1号証意匠(「甲第1号証の1、2、3の示す意匠」をいう。以下同じ)との類否

本件登録意匠は外側スポークをリムの内方環状面の内側に設けて、フランジ付ボルトはスポークに直接設けておらず、内側スポークの基本形状を「Y」状として、センターキャップを大きい偏平六角形状とした構成態様であるのに対し、甲第1号証意匠は外側部分のスポークをリムの内方環状面の外側に設けてボルトで直接固着し、内側部分のスポークの基本形状を「V」状とし、センターキャップを小さい偏平八角形状とした構成態様である。

とりわけリムとディスクとの構成態様において、サンドイッチタイプとオーバーヘッドタイプの構造及び正面全体から見た構成比率の相違は外観として現れ、その相違は顕著である。

ディスクについては、この種物品の要部であって類否判断に影響を及ぼすところである。この点において、一方はスポークを分割構成して内側スポーク(センタープレート部)と外側スポークとの接合部分に細線を表し、内外側スポークが太くて丸みがあり、全体として重厚で立体的な形態であるが、他方はスポークを一体に形成して細くて角張っており、全体として軽薄で平面的な形態である点で両意匠は顕著に相違している。

特にディスクの内側部分は意匠の創作の基調を成すところであって、類否判断を左右する主要部である。この点において、一方は基本形状を「Y」状としたことによって内方が大きく五角形状に区画されしかも「Y」状の垂直部分がセンターキャップの中心に向けて集中する放射状の印象を強く惹起させるものであるが、他方は基本形状を「V」状としたことによって、内方が小さい三角形状に区画され、センターキャップの中心に対して屈折した態様を表しているため、両者は顕著に相違しており、看者に別異の印象を与えている。

センターキャップについては、円形基盤の大きさの相違は物品の中心部に位置するため特に目立つものであって、この相違は顕著である。センターキャップにおいても、一方は偏平六角形状の前面の略全体を凹陥平坦面とした形状であって、大きくてかっちりと角張っているが、他方は偏平八角形状の前面を平滑面とした小さくて丸みを感じさせる点で両意匠は相違している。

以上のとおり、両意匠は要部において相違し、各部の具体的構成態様においても相違するから、到底類似するものではない。

(2)甲第2号証意匠(「甲第2号証の1、2、3の示す意匠」をいう。以下同じ)との類否

両意匠の共通点及び相違点を比較検討し、全体として観察すると、両意匠の共通点は概念的な構成に係るものであるので類否判断にさほど影響を及ぼすものではない。

他方、相違点は両意匠の全体感に影響を及ぼすものであって、類否判断では軽視し得ないものである。

なお、甲第2号証意匠は、本件登録意匠の出願時において引用された意匠(雑誌カー アンド ドライバー、昭和57年9月1日号第128頁の自動車ホイール〈類許庁意匠課公知資科番号J5732700号〉)と実質同一のものであり、これとの非類似性はその拒絶査定不服審判である昭和61年審判第11448号にて既に認定されている。

(3)甲第3号証意匠との類否

本件登録意匠は外側スポークをリムの内方環状面の内側に設けてフランジ付ボルトはスポークに直接設けておらず、内側スポークの基本形状を単純な「Y」状として、センターキャップは大きい偏平六角形状とした構成態様であるのに対し、甲第3号証意匠は外側部分のスポークをリムの内方環状面の外側に設けて先端部の中間部にポルトを配設し、内側部分のスポークの基本形状を複雑な「〈省略〉」状として、センターキヤップは平歯車状を呈する変形の小さい偏平八角形状とした構成態様である。

とりわけリムとディスクとの構成態様において、サンドイッチタイプとオーバーヘッドタイプの構造及び正面全体から見た構成比率の相違は外観として現れその相違は顕著である。

ディスクについては、この種物品の要部であって類否判断に影響を及ぼすところである。この点において、一方はスポークを分割構成して内側スポーク(センタープレート部)と外側スポークとの接合部分に細線を表し、内外側スポークが太くて丸みがあり、全体として重厚で立体的な形態であるが、他方はスポークを一体に形成して細くて角張っており、全体として軽薄で平面的な形態である点で両意匠は顕著に相違している。

特にディスクの内側部分は意匠の創作の基調を成すところであって、類否判断を左右する主要部である。この点において、一方は基本形状を単純な「Y」状としたことによって、内方が同じ大きさの五角形状に区画されをものであるが、他方は基本形状が複雑な「〈省略〉」状で、内方の四方に大きい「〈省略〉」状を表し、これに隣接して小さい「〈省略〉」状を二個配して形成した点で両意匠は全く相違しており、看者に別異の印象を与えている。

センターキャップについては、両意匠の円形基盤の大きさの相違は物品の中央部に位置するため特に目立つものであって、との相違は顕著である。センターキャップにおいても、一方は偏平六角形状の前面の略全体を凹陥平坦面とした形態であって、大きくてかっちりと角張っているが、他方は平歯車状を呈する変形の小さい偏平八角形状の前面を平滑面とした形態であって、丸みを感じさせる点で両意匠は全く相違している。

以上のとおり、両意匠は要部において相違し、各部の具体的構成態様においても相違するから到底類似するものではない。

(4)甲第4号証意匠(「甲第4号証の3、2の示す意匠」をいう。以下同じ)との類否

本件登録意匠は、スリーピース ホイールのリムの内方環状面に多数本のフランジ付ボルトを配設し、内側スポークの基本形状を「Y」状として、センターキャップは偏平六角形状とした構成態様であるのに対し、甲第4号証意匠はワンピース ホイールであって、リムに締金具を設けておらず、ディスクを構成する内側スポークの基本形状を「V」状として、センターキャップは偏平六角形状とした構成態様である。

とりわけリムとディスクの構成については、スリーピース ホイールとワンピース ホイールの構造及び正面全体から見た構成比率の相違が外観として現れ、締金具の有無は一瞥して認識されるものであるから、その相違は顕著である。

ディスクについては、この種物品の要部であって類否判断に影響を及ぼすところである。この点において、一方は内外側スポークが太くて丸みがあり、全体として重厚で立体的を形態であるが、他方は、内外側スポークが細くて角張っており、全体として軽薄で平面的な形態である点で両意匠は顕著に相違している。

特にディスクの内側部分は意匠の創作の基調を成すところであって、類否判断を左右する主要部である。この点において、一方は基本形状を「Y」状としたことによって、内方が大きく五角形状に区画され、しかも「Y」状の垂直部分がセンターキャップの中心に向けて集中する放射状の印象を強く惹起させるものであるが、他方が基本形状を「V」状としたことによって、内方が小さい変形菱形状に区画され、センターキャップの中心に対して屈折した態様を表す点に両意匠は全く相違しており、看者に別異の印象を与えている。

センターキャップについては、円形基盤の黒色と明調子の相違、センターキャップの前面が凹陥して黒色に表したものと、平滑面の中央部に大きく暗調子の円形を表したものとの相違、正面全体から見た大きさの相違が相俟って、偏平六角形状とした共通感を凌駕しており、両意匠は各々独特な印象を与えている。

以上のとおり、両意匠は要部において相違し、各部の具体的構成態様においても相違するから、到底類似するものではない。

(5)甲第5号証意匠(「甲第5号証の1、2の示す意匠」をいう。以下同じ)との類否

〈1〉リムについては、本件登録意匠は広幅の内方環状面に、偏平円柱状の上面を凹陥した下方に円板状の縁を有するフランジ付ボルトを多数本配設しているのに対して、甲第5号証意匠は、細幅のリムに半球状のリベットを多数本配設したものであって、両意匠は締金具を多数本配設した点で共通するとしても、その形態の相違とリムの幅の広狭によって軽量感と重量感という違いを生じさせるから、この相違は顕著である。

〈2〉ディスクについては、この種物品の要部であって類否判断に影響を及ぼすところである。この点において、一方はスポークを分割構成して内側スポーク(センタープレート部)と外側スポークとの接合部に細線を表し、内外側スポークが太くて丸みがあり、全体として重厚で立体的な形態であるが、他方は、スポークを一体に形成してセンタープレートが無く、しかもスポークが細くて角張っており、全体として軽薄で平面的な形態である点で両意匠は顕著に相違している。

特にディスクの内側部分は意匠の創作の基調を成すところであって、類否判断を左右する主要部である。この点において、一方は基本形状を「Y」状としたことによって内方が大きく五角形状に区画され、しかも「Y」状の垂直部分がセンターキャップの中心に向けて集中する放射状の印象を強く惹起させるものであるが、他方は基本形状を「V」状としたことによって、内方が小さい三角形状に区画され、センターキャップの中心に対して屈折した態様である点で両意匠は顕著に相違しており、看者に別異の印象を与えている。

〈3〉センターキャップについては、その厚さが重厚感と軽薄感と相反する印象を与える点で、偏平六角形状とした共通感を凌駕しており、両意匠は各々独特な印象を与えている。

以上のとおり、両意匠は要部において相違し、各部の具体的構成態様においても相違するから、到底類似するものではない。

2.本件登録意匠の創作非容易性について

審判請求人は、甲第1号証意匠乃至甲第3号証意匠から本件登録意匠が容易に意匠の創作をすることができたものと主張するが、これら甲各号証意匠はリムの内方環状面の外側に設けたスポークの各先端をボルトで固着した点、ディスクの内側部分を五角形状(甲第1号証意匠を除く)に形成した点の二つの要素を総合したものである。これらは各部位における態様を示すものであって周知形状そのものではないから、審判請求人の主張は概念的にすぎない。

特許庁における意匠審査基準は、容易に意匠の創作がなされたもののうち、ありふれた形状や模様に基く場合について、「周知の形状、模様であって、いろいろな物品に用いられているものをほとんどそのまま物品に表した程度にすぎないもので、当業者が容易に創作できると認められるもの」として運用している。

従来、メッシュタイプのホイールであっても各各別個の意匠として創作され、意匠登録されていることも厳粛な事実である。これは創作者の個性によって別個の意匠が創作されていることを示すものである。

以上のとおり、本件登録意匠は周知の形状をほとんどそのまま自動車用ホイールに用いたものではなく、また、これらから容易に創作できたものではないことは明白である。

(Ⅲ)当審の判断

1.本件登録意匠

本件登録意匠(「登録意匠第736655号」をいう以下同じ)は、昭和58年(西暦1983年)7月21日ドイツ連邦共和国においてした工業的意匠の国際寄託に関するヘーグ協定出願に基づきパリ条約第4条により優先権を主張して、昭和59年1月20日に出願されたが、その後拒絶の査定をされたので、これを不服として審判を請求したところ、本願の意匠は登録をすべきものとする旨の審決がなされ昭和63年3月4日登録されたものであって、その意匠の要旨は、別紙第一に示す物品「自動車用ホイール」の構成態様からなる下記のとおりのものであることが、本件登録意匠の意匠公報、同登録原簿及び出願書面の記載によって認められる。

すなわち、本件登録意匠は自動車用車輪のタイヤを除いた部分、「自動車用ホイール」(以下「ホイール」という)の形態についての創作に関するものであり、その全体の構成は概略ホイールの外周の「外輪部」とその内側に固着された「内輪部」とからなり、前者はタイヤを装着する略円筒体を呈するリム部、後者はハブ(車軸に取付ける部分)及びスボーク(車輪の輻)に相当する部分を一体的に形成した略円盤状の部分のデスク部であり、なお、リム部はフロントリム部とリヤーリム部からなっており、デスク部はその前後リム部の間でボルトによって固着され、さらにデスク部のハブ部の中心部の前方側にはセンターキャップ(本件登録意匠のハブ部の構造上の構成は、車軸をハブ部の周縁でボルトで固着し、該部は凹状とした中凹状のものでその表面全体を蓋体・カバープレートで覆いこれを中心部のセンターキャップで固着したもの)を配している。

そして、これらの具体的な構成態様は、リム部がその前後端縁部を段状の円板状に出張らせた全体が略多段状の短円筒のものであり、一方、デスク部は一枚の分厚い円板の外周付近一帯に一定の規則性をもった多数の多角形の透孔を一連に設けてこの部分全体を「地」と「図」の関係として、図を略「X字並び」の環状帯を呈する透し形状のスポーク部としさらにその内側の環状の周縁付近

一帯のハブ部外周縁付近(「センターキャップ部」を除く部分)の表面には前記図(略「X字並び」の環状帯)に関連対応した骨格を呈する太い線状部を図として浮彫状に現わし、またその内側の中心付近のハブ部は円形状に残し、そして該部略全体において略六角形状のセンターキャップを前方に突出するように配している。なお、リム部とデスク部との結合は、正面よりみてデスク部の外周縁端を、その外側に位置するフロントリム部の内周縁端の後方に配して、これらを貫通するボルトにより一定の間隔で固着されている。

さらに仔細に、図としてのスボーク部とハブ部の外周縁付近の構成態様にみると、センターキャップ側よりは、前記のハブ部の内側の中心付近に残された円形状部の周縁の等間隔の一定の部分から前記太い線状部が比較的太い隆起状線として極く短く外側へ立ち上りそしてその先端から大きな角度の二叉状(V字状)に分かれ倍増され(したがって該部全体としては小Y字状)そしてその後近隣の隆起状態が相互に交叉しながら外輪部の内周縁端に向って同一パターンが漸次拡大反復する態様(メッシユ状)に斜めに放射され大くなってその縁端に至るが、その先端付近で実行のあるものすなわち地の部分が透彫状となるスポーク部のスポーク化した態様を呈し、またスポーク部側からは逆の過程をたどる態様(斜視図参照)でとれらは全体としていわゆるクロススポーク状を呈するメッシュ状に形成されそしてこれらの隅部はやゝ丸味をもたせたものであって、また、センターキャップ部の頂部及びその基部周縁は暗調子、その他の内輪部は明調子としている(本件登録意匠の意匠公報参照)。

2.甲第5号証意匠(「甲第5号証の1、2の示す意匠」をいう以下同じ)

請求人引用の甲第5号証意匠は、ドイツ雑誌「auto motor und sport」1983年6月29日号 第11頁所載の図版(イラストレーションと認められる)によって現わされた自動車のその車体に装着された車輪のうちの自動車用ホイールに係るものであって、その要旨は、別紙第二に示す前記の物品「自動車用ホイール」の構成態様からなる下記のとおりのものであることが前記図版によって認められる。

すなわち、甲第5号証意匠は自動車用車輪のタイヤを除いた部分、「自動車用ホイール」(以下「ホイール」という)の形態についての創作に関するものであり、全体の構成は概略ホイールの外周の「外周部」と、その内側に固着された「内輪部」とからなり、前者はタイヤを装着する略円筒体を呈するリム部、後者はハブ(車軸に取付ける部分)及びスポーク(車輪の輻)に相当する部分を一体的に形成した略円盤状の部分のデスク部であり、デスク部はボルト状のもので固着され、そしてデスク部の中心部のハブ穴に相当する部分の前方側にはセンターキャップ(このハブ部の構造上の構成は大別して二種あり、このハブ部のそれは必ずしも明確ではないが、車軸をハブ穴で固着したタイブと推定されここに配されたものを「ハブキャップ」と称することもできるが、主としてその構造にかゝるものであるから、ここでは「センターキャップ」と称する)を配している。

そして、これらの具体的な構成態様は、リム部がその前端縁部を段状の円板状に出張らせた全体が略多段状の短円筒のものであり、一方、デスク部は一枚の分厚い円板の外周付近一帯に一定の規則性をもった多数の多角形の透孔を一連に設けてこの部分全体を「地」と「図」の関係として図を略「X字並び」の環状帯を呈する透し彫状のスポーク部としさらにその内側の環状の周縁付近一帯のハブ部の外周縁付近(「センターキャップ部」を除く部分)の表面には前記図(略「X字並び」の環状帯)に関連して対応した骨格を呈する太い線状部を図として浮彫状に現わし(該部が透孔としたものか、浮彫状としたものかは不明な点もあるが該部を精査すると例えば該部のスポーク状部の交叉部において、地の部分が透孔であれば、現われるべき奥行方向を示す線が表現されていないこと及びこの種メッシュタイプのホイールの該部に関する証拠を勘案するとそう解するのが相当である)、またその内側の中心付近のハブ部は円形状に残し、そして該部略全体において略六角形状のセンターキャップを前方に突出するように配している。なお、リム部とデスク部との結合は、正面よりみてデスク部の外周縁端を、その外側に位置するフロントリム部の内周縁端の後方に配して、これらを貫通するボルト状のものにより一定の間隔で固着されている。

さらに仔細に、図としてのスボーク部とハブ部の外周縁付近の構成態様をみると、センターキャップ側よりは、前記のハブ部の内側の中心付近に残された円形状部の周縁のそれぞれ等間隔の一定の部分から前記太い線状部が、二本一対とした比較的太い起立状態として大きな角度の二叉状(V字状)に分れその後近隣の起立状線が相互に交叉しながら外輪部の内周縁端に向って同一パターンが漸次拡大反復する態様(メッシュ状)に斜めに放射され大きくなってその縁端に至るが、その先端付近で実行のあるものすなわち地の部分が、透彫状となるスポーク部のスポーク化した態様を呈し、またスポーク部側からは逆の過程をたどる態様でこれらは全体としていわゆるクロススポーク状を呈するメッシュ状に形成されこれらの隅部を明確に現わしたものであって、また、センターキャップ部の頂部を暗調子とし、その基部の円形状部を中間調子としている。

なお、甲第4号証意匠(「甲第4号証の1、2の示す意匠」をいう以下同じ)は次のとおりのものである。

甲第4号証意匠は、ドイッ雑誌「auto motorund sport」1982年12月29日号 第37頁所載の写真版により現わされた自動車に装着された車輪のうちの自動車ホイールに係るものであって、その要旨は、別紙第三に示す前記の物品「自動車用ホイール」の構成態様からなる下記のとおりのものであることが認められる。

すなわち、甲第4号証意匠は自動車用車輪のタイヤを除いた部分「自動車用ホイール」(以下「ホイール」という)の形態についての創作に関するものであり、その全体の構成は概略ホイールの外周の「外輪部」を、その内側に固着された「内輪部」とからなり、前者はタイヤを装着する略円筒体を呈するリム部、後者はハブ(車軸に取付ける部分)及びスポーク(車輪の輻)に相当する部分を一体的に形成した略円盤状の部分のデスク部であり、デスク部はリム部に一体的に溶着され、そしてデスク部の中心部の前方側にはセンターキャップ(この意匠のハブ部の構造上の構成は、車軸をハブ部の周縁でボルトで固着し、該部は凹状とした中凹状のものでその表面全体を蓋体・カバープレートで覆いこれを中心部のセンターキャップで固着しているものと認められる)を配している。

そして、これらの具体的な構成態様は、リム部がその前端縁部を段状の円板状に出張らせた全体が略段状の短円筒のものであり、一方、デスク部は一枚の分厚い円板の外周付近一帯に一定の規則性をもった多数の多角形の透孔を一連に設けてこの部分全体を「地」と「図」の関係として図を略「X字並び」の環状帯を呈する透し彫状のスポーク部としさらにその内側の環状の周緑付近一帯のハブ部外周縁付近(「センターキャップ部」を除く部分)の表面には前記図(「X字並び」の環状帯)に関連して対応した骨格を呈する太い線状部を図として浮彫状に現わし、またその内側の中心付近のハブ部は円形状に残し、そして該部略全体において六角形状のセンターキャップを前方に突出するように配している。なお、リム部とデスク部との結合は、正面よりみてデスク部の外周縁端を、その外側に位置するフロントリム部の内周縁端面と面一致状に配して固着されている。

さらに仔細に、図としてのスボーク部とハブ部の外周縁付近の構成態様をみると、センターキャップ側よりは、前記のハブ部の内側の中心付近に残された円形状部の周縁のそれぞれ等間隔の一定の部分から前記太い線状部が二本一対とした、比較的太い起立状線として大きな角度の二叉状(V字状)に分れその後近隣の隆起状線が相互に交叉しながら外輪部の内周縁端に向って同一パターンが漸次拡大反復する態様(メッシュ状)に斜めに放射され大きくなってその縁端に至るが、その先端付近で奥行のあるものすなわち地の部分が透彫状となるスポーク部のスポーク化した態様を呈し、またスポーク部側から逆の過程をたどる態様でこれらは全体としていわゆるクロススポーク状を呈するメッシュ状に形成されこれらの表面の隅部を明確に現わしたものであって、また、センターキャップ部の頂部及びハブ部の地の部分は暗調子、その他の部分は明調子としている。

3.本件登録意匠と引用意匠との比較検討

本件登録意匠と甲第5号証意匠と比較すると、両意匠は同一の物品に係り、その構成態様においても、リム部とデスク部の結合具の具体的な構成態様及びメッシュ状に形成された表面の隅部の丸味の有無等その仔細な態様を除き略共通しており両意匠の要旨は相互に略共通する。

そこで、これら両意匠の共通点及び差異点を意匠全体として観察してその類否について述ぺる。

先ず、基本的にはホイール(この場合一般に「軽合金製ホイール」を指す)の形状は、タイヤが装着される円筒状の「リム部」と車軸に固定する「デスク部」の二つの部分で構成されているが、さらに製法上の要請等からリム部を2分割するいわゆる3ピースタイプのものが存在することは良く知られているが、本件登録意匠のものはホイールの構造上、前記の構成部品の結合態様から分類されるもののうち、後者に属するものであることは明らかである。ところで、証拠に上れば一般にホイールの形状においてリム部はタイヤが装着されるためほゞその形式が定まっており、請求人も要部とするところ、一般には意匠の創作はデスク部を中心に工夫されるものであると認めることができる。そしてこのデスク部の態様はその発展過程から略三つのタイプ、すなわち、デッシュタイプ、スポーク(木製)タイプ及びメッシュタイプに分類されることも顕著な事実であり、そして被請求人が指摘するように本件登録意匠のものはクロススポーク状のものからなるメッシュタイプのものに属することも明らかである。メッシュタイプのものは原型をワイヤースポーク(殆んどクロススポーク状を呈するので以下「クロスワイヤースポーク」という)の形状から発したものとされるが、そこで本件登録意匠についてみると、具体的にはデスク部は車軸取付部(ハブ部及びその周部)事実上のスポーク部に相当する部分(透彫状の環状部)に分かれているが、本件登録意匠のこれらを総合し意匠の主題と認められる図すなわち、クロススポーク状を呈するメッシュ状を全体としてみると、その態様は当該タイプの原形ともいえるクロスワイヤスポークの抽象化された態様(一般に交点が3力所程度のクロススポーク状を呈するもの)全体を基部迄損うことなくかなり忠実に模したものといえる(甲各号証参照)。そしてそれは本件登録意匠のハブ部の構造上の構成のものにおいて引用意匠甲第4号証意匠と同様にハブ部周辺の車軸取付ボルト部を凹ませ該部を体でカバー(被請求人のいう「内側スポーク(センタープレート部)と外側スポークとの接合部の細線を表し」とするその内側の部分、昭和60年11月14日付の意見書添付写真版中の「着脱自在なカバープレート」と称している部分)し、その表面にセンターキャップ基部までにスポーク部のスポーク状のものの骨格に対応する太い線状部仔細には隆起状線を連続して形成するようにして、全体として前記認定の如きクロススポーク状を呈するメッシュ状を現わした点を特徴とするものであると認められる。

そして甲第5号証意匠は、ハブ部の構造上はハブ穴(センターキャップ部に相当)に直接車軸を軸着したものと認められるが、本件登録意匠のものが蓋体を介して結果的に引用意匠と同様の意匠的特徴を奏するものとしたということができる。すなわち、両意匠はセンターキャップ及びその基部を共通とするとともにそのクロススポーク状を呈するメッシュ状の構成態様を全体としてみるとその基部の円形周縁から外輪部内側に至る態様としてデスク全体にクロスワイヤースポーク状を呈するように浮彫状部及び透彫状部において地と図の関係としてこれらを統合的に関連させて連続してその全体を損うことなく明確に現わしたものといえ、その構成態様は前記認定のとおりであって、そこに抽出される特徴はこれを両者が共有するものであり、そして前記認定・判断に鑑みればデスク部におけるこの特徴が両意匠の類否を支配的に左右する主要部である。

一方、そのスポークのメッシュ状のクロススポークを模した太い線状部において仔細には隆起状線が起立状線かの差異及びその表面隅部に丸味をもたせたかどうかに差異がある。しかし一般に隅部を隅丸状とすることは形状の処理として極めて普通のことであることは勿論、前記認定のこの程度の差異は極端なものではなく本件登録意匠のものはこの種物品においてその出願前に存在する引用意匠の該部について類形(変形)を得るために普通に使用される慣習化された手段(常套的手段)によって得られる変形程度のもの(商業的変形に属するもの)で、この種物品の意匠的評価水準に照らして新規性がなく、共通点における表現上の微細な差異というべく、これが前記共通点が奏する意匠上の基調を到底左右するものではない。また、調子の差異(彩色を含め)も同様のことからその差異は弱い(当該登録意匠及びその原本、甲第1号証の1、2、3、甲第2号証の1、2、3、甲第3号証参照)。

そこで被請求人の主張事由について言及するに、先ず、〔1〕の(5)の〈1〉のリムについて、その差異は殆んど認められない。すなわち、仮りにその幅に差異はあるとしてもそれは単なる比率の差異で意匠上その段差が奏する特質を左右する要因ではない。さらにポルトとリベットを区別する主張についても引用意匠のものがボルト状の突状の固着具が一定の間隔で配されていることは明らかで経験則上これをポルト相当のものと解してよく、本願登録意匠のものが特別のものでないことからこの点でも酷似すると判断せざるを得ない。ちなみに請求人は本件登録のものは、「下方に円板状の縁を有するフランジ付ボルト」と主張するが、本願意匠を現わした当該出願書類の図面代用写真によればフランジ部の無いものである(筒胴内側角形状と認められる)が、もっとも、その優先権主張の基礎とした優先権証明書に添付の第一国に登録出願されたものには認められる(フランジ付角形柱状と認められる)が本願登録意匠におけるこの程度の変更は意匠上さしたるものではなく(また前者は一般にボルト頭として極く普通のもので後者もさしたる新規性のない普通のものである)指摘する程のものではない。ましてもとより優先権証明書は我が国の意匠登録出願における添付図面代用写真としての性質または効力をもつものではないから、したがってこの点に関する両意匠の差異点の評価においても前記のとおりに判断するのが相当である。上同項の〈2〉デイスクについて、本件登録意匠のものは、「内外側スポークを分割構成して内側スポーク(センタープレート部)と外側スポークとの接合部に細線を表し」と主張するが、その線状は着脱自在なカバープレート(ハブ部の車軸取付ボルト配置凹部のカバー(昭和60年1114日提出の意見書添付写真版参照)、答弁書では「センタープレート部」)とその周縁部との接合線にすぎず(調子の差異は極めて微細であえていえば材質の差異程度である)、それはむしろその表面に現わされた太い線状部(図)の奏する流れによってデスク部全体が相互に関連する体的なものとして現わされたものと認識される。すなわち、これは全体としてクロススポーク状を連想するメッシュ状に現わした点にその造形処理上の課題が認められこの点が本願登録意匠の主要部を構成し奏出すると認められるものであり、その主張には合理性に欠ける(なお、カバープレートを配するようにしたことは本件登録意匠独自のものではなく新規性のないものであることは甲第4号証意匠から明らかである)。さらにスポーク若しくはスポーク状部(太い線状部)の太さ、丸み及びその平面の調子について主張するが、前記したようにその差は弱い。前記判断について事実に即して詳述すれば、本件登録意匠の斜視図を参酌すれば明らかなように立体としてその奥行も考慮してみれば、板状体を交叉させた態様の視認性が強くその差は局部的で、また極めて微弱、微細な表現上の差異にすぎないことは明らかである。また、スポーク状太線状部のセンターキャップの基部において外側への立ち上り状(Y字状)としたのも、単にクロススチールスポークの内側端部の態様の一つを模したもので、またそれもメッシュタイプのものとしても本件登録意匠独自なものではなく(例えば、甲第3号証意匠及び審査での拒絶査定の理由に引用された意匠等の該部を参照但し、前者のボルト穴部では切欠されているのでこの点を補審すれば尚明確である。)新規性に乏しく、さらに立体としてはメッシュ状部は二叉状部またはこれを基点とし反復する相似形状の部分の方が重奏していて視認されやすく(斜視図参照)指摘されるこれらの差異はいずれも局部的若しくは微弱なものである。同項の〈3〉のセンターキャップの態様についても止め具のナット頭の態様としてこの種物品において周知のものであるところ、比率の差異はその特質を左右せず、その特有の形態を共有するものでこの点斜視図によりその類似性は明らかであって(甲第4号証の1、2)、さらに着色または調子の差異についても前記のとおり本願登録意匠のものが特別なものではなく、この種物品の極く普通の類形的な差別化の手法による変形に属するものであり何ら特徴あろものといえない(本件登録意匠公報、同原本甲第1号証の1、2、3及び同第2号証の1、2、3参照)。

このようにこれらの差異はいずれも引用の意匠に比して本件登録意匠の新規性若しくは独自性を奏するものといえずこれらの差異点を総合しても、前記主要部の共通点が奏する基調に影響を与えるものではなく、その他リム部及びナット状部を含め他に共通点のある両意匠は全体として相互に類似すると判断せざるを得ない。結局、意匠法の保護の対象としての意匠の類否判断においては、それが独自に創作されたか否かにかゝわらずそれぞれそこに提示された表現手段により現わされた意匠が奏するその本質的な態様・特徴を抽出し、この種物品分野に属する意匠の創作の水準に照らし評価すべきところ、前記のとおりこの点の配慮を欠く被請求人の主張は妥当性を欠き採用の限りではない。

以上のとおりであって、そして甲第4号証意匠は本件登録意匠の出願前に日本国内及び外国において頒布された刊行物に記載のものであることは勿論、甲第5号証意匠も本件登録意匠の出願前には少なくとも外国において頒布された刊行物に記載されたものと認められるものであり、したがって、本件登録意匠第736655号の意匠はその出願前に外国において頒布された刊行物に記載のものに類似し意匠法第3条第1項第3号に該当するものであって、本件登録意匠については、意匠法第3条第1項に規定する意匠登録の要件を具備しないにかゝわらずこれに違反して登録されたものであるから、その登録は無効とすべきものとする。

なお、他に当事者間に主張するところがあるが、審決をするにつき影響しないので言及しない。

よって、結論のとおり審決する。

平成1年9月21日

審判長 特許庁審判官 野口勇

特許庁審判官 田辺隆

特許庁審判官 山田啓治

別紙第一 本件登録意匠

意匠に係る物品 自動車用ホイール

意匠の説明 右側面図は左側面図と対称

〈省略〉

別紙第二 甲第5号証意匠

〈省略〉

別紙第三 甲第4号証意匠

〈省略〉

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